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ネットやテレビではびこっている、おいしさ表現に喝!

2010年にソムリエの田崎信也氏が『言葉にして伝える技術』(祥伝社新書)を著された。ここで田崎氏が主張したかったことは、テレビのグルメレポーターや雑誌、サイト等で出てくるメニューのおいしさ表現は、本当においしさを伝えていないものが多い、ということだ。メニュー販促の参考になると思われるし、いくつかピックアップしてみる。詳細は田崎氏の著作を直接読んでみてほしい。

「肉汁がジュワっと広がる」
脂の多い肉を食べれば美味しい肉なくても広がるよ。肉の風味はどうなんだい。
「バターを贅沢に使った」
贅沢にって、バターをたくさん使った、量の話でしょ。おいしさは量じゃないよ、バランスだよ。
「こくがあって、あっさりしてる」
「こく」と「あっさり」は対極の言葉でしょ、一体どっちよ。
「手作りだからおいしい」
飲食店で手作りしてなきゃ、ダメでしょ。
「厳選した素材を使っているからおいしい」
適当に素材を選んでたら客に失礼でしょ。
「地元の素材だからおいしい」
地元だからってなんで美味しいの?
「産地直送だからおいしい」
質の高い魚はまずは築地へ売るよ。
「オーガニックだからおいしい」
有機農法がうまくて、農薬使った方がまずいのは何で?
「秘伝のたれを使っているからおいしい」
秘伝のたれだから美味しいとは限らないでしょ。
「長い時間かけているからおいしい」
日にちかけるより、どんな素材を入れて煮込んだ殻の方が重要じゃない?
「食べやすい、飲みやすい」
何の味もしないほうが食べやすいし飲みやすいんじゃないの。

括弧書きに続く文章は、田崎氏の主張を自分なりにかみ砕いて説明したものであり、決して田崎氏の文言を正確に要約したものではない。田崎氏は実際はとても品のある言い方をされていることに注意願いたい。

確かに、これらのおいしさ表現は色々なところに使っていて、自分がグルメリポーターをやった場合、安易に使ってしまう表現かも、と思ったり、一般の素人は上記表現だけで十分に美味しいと思い込んでいる節がある。ご説ごもっともである。田崎氏は日本でも著名かつ優秀なソムリエの一人であり、海外の要人をワインで接待するときに、それだけ責任を伴う重要な仕事をされている。そして客を喜ばせるワインを選択するときに、顧客の味覚のニーズを的確にとらえる必要があり、職業柄、左脳でじっくりと味覚をつかみとっているのだろう。料理人やソムリエ(味のプロ)は「頭の中で味を描けないといけない」、と表現している。それに引き換え、一般ド素人は右脳で直感で判断してしまうし、そこまで味を的確にとらえる必要もない。

「こくがあって、あっさりしている」という対極の表現に対しては田崎氏からのより良い表現の提案がある。それは「はじめにトンコツからのふくよかなうま味を感じるが、余韻には野菜からのあっさりした爽やかな風味が残ります」というもの、これならば確かに腑に落ちる。しかしグルメリポーターはそんな複雑に考えてもいないだろう。いろんな味が包括的に含まれているから良しとするのか、あるいは「黒い白馬に跨って」というような、あり得ない違和感にどことなくミステリアスさを感じるのかもしれない。いずれにせよ、そこまで深く考えていることはないだろうし、そもそも本当に美味しいと思って食べているかすらも疑問だ。どんなに一般的に美味しい料理が出てきても、個人的に口に合わないものはあるのではないか。全員美味しいですねーというのもなんか嘘くさい。

「地元の素材だからおいしい」というのは単純に、地元愛を刺激し、地元でとれたから新鮮だ、新鮮だと旨い、という思いからくるものと思われる。

「秘伝のたれを使っているからおいしい」というのは、「秘伝」という言葉にそそられるものがある。その店でなければ食べられないという希少性がプラスに働いている。

一般人は難しく考えるのが苦手だし、「おいしさ表現」は消費者が直感でピンときて、後は勝手に個人で想像を掻き立てるものであれば十分だともいえる。SNSで情報を発信するときは、本当に美味しさを表現できていなくても、受け取る側が美味しいと感じられる最低限のワードを使えばよいのではないか。ただ、だからといって田崎氏の指摘が間違っているわけではなく、むしろ正しい。しかしながら、そのような高度な味覚表現は、今のところ高級料理店のお客にふさわしいということになるが、田崎氏の指摘を加味しつつ、表現力を高めていくことで、メニュー販促がより効果的になることは想像に難くない。

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